日本の神仏 川副秀樹

 お狐さん

動物としての狐は平地や低い山の林の穴に棲むが、塚や墳墓などの斜地も好むようで、そのため死者や霊との関わりも疑われ続けてきた。新田の開発が進められると、ますます人間と生活領域が重なってくる。全国に残る「狐塚」の地名もその証である。
もともと八百万の神々とともに生きる原始神道の世界では、動物には人間にない霊力や能力があると信じられていた。
今昔物語集に人に憑く狐の話が登場する。この頃、都の各所で狐が饗宴を開いて、さまざまな怪事件が起きている。狐は馬の骨を使って火を出すと信じられ、「鳥獣戯画」には、尻尾の先から火を出す狐が描かれている。
狐がその霊力を最大限に発揮するためには人間との関わりが必要なのだろう。

お稲荷さん

*翁形(稲荷大明神)
秦氏祀っていた稲霊、農神であったが、奈良時代、弘法大師空海が東寺を建立するため、この地の地主神であった稲荷大明神を東寺守護神として祀るという契約を結んだ。

*女神形(茶枳尼天)
白狐に乗り、稲束を荷っている。左手には宝珠を持つ。愛知県豊川市妙厳寺の祭神として有名。もともと茶枳尼天というインド出身の女神だし、現に寺院に祀られているので、こちらは仏尊

*融合形
成田山新勝寺・出世稲荷の祭神で、翁形だが幟に見るとおり「茶枳尼天」となっている。

*食稲魂命(うかのみたまのみこと)と宇賀神の融合形
戸隠中社・十輪院の開運稲荷の神像で宇賀魂命とあるが、その姿は稲をもっておらず正真正銘の茶枳尼天である。稲荷神社は祭神を宇賀魂命とする場合が多いので、ほとんどが翁形である。女神姿の宇賀魂命は非常にめずらしい。

茶枳尼天

ダーキニーは相当な霊力を持つ女夜叉、つまり鬼女でもあった。人間の肝や心臓を喰らうと、さらに強力な呪力を獲得するので大日如来がこれを嫌い、自ら暗黒の夜叉である大黒天と化して尸林に赴き、身体に灰を塗って死体を装い、茶枳尼天を降伏させて仏門に下らせた。
しかし、生きた人間の心臓がないと無力になってしまうという茶枳尼天の嘆きを聞き入れ「それならば死ぬ直前の心臓に限って取っても良い」という条件を付け、茶枳尼天に「人の死を六ヶ月前に知る」予知能力を与えた。
ここから茶枳尼天は「先を見通す通力自在」の女神として信仰されるようになった。

飯縄神

高尾山薬王院という真言宗の寺院があり、その本尊は飯縄大権現という日本のオリジナル神で、尊像は複数の神仏が合体した姿である。
・不動明王
・カルラ天(天狗)
・白狐は茶枳尼天
・宇賀弁財天
・胸中に歓喜天を抱く
無益な戦いを避けようとする強い意志を持つ
したがって飯縄神はどこに祀られたかというと、敵勢力同士の最前線である。
飯綱山は武田と上杉、高尾山は武田と北条である。
上杉謙信の兜の前立てにもある

1233(天福元年)、長野県飯綱山に、水内郡の城主で修験者伊藤豊前守忠縄が千日間籠もって飯縄大明神を感得し、続いて息子の次郎太夫盛縄も千日間の修行をし、霊獣(クダ狐)を使役する「飯縄の法」とよばれる呪法を習得した。狐をつかう茶枳尼の法や天狗を使う愛宕の法ににている。

秋葉三尺坊

飯縄大権現と同じ姿をした秋葉三尺坊大権現とは、三尺坊という実在した高僧のようである。ただし、出生は母が夢中に飯縄神の変化ともいわれる観音を感応して身籠もったと伝えられているので、半分人間、半分神ということになる。
飯縄神を深く信仰し、戸隠山西窟や栃尾背後の守門岳で苦修練を重ね、永仁二(1294)年、不動三昧法を修した七日満願の朝、護摩の火焔の中に金翼をつけた黒鳥が宝剣と羂索を握る姿を感得。そこで自ら本尊たらんと一法をあみだし、念じると煩悩生死の業が滅却し、ついに生きながら天狗となった。そして白狐に乗って南下、空中に種々形をもって諸国土を遍歴、衆生済度するという声を響かせながら遠州秋葉山に降り立った。

天狗さま

天狗が祀られている山は全国にある
・山形県羽黒山
・東京都高尾山
・長野県飯綱山
・富士山
・静岡県秋葉山
・富山県立山
・京都府愛宕山・鞍馬山
・愛媛県石鎚山・福岡県英彦山
・鹿児島県屋久島

天狗は羽団扇で火を自由に操れると思われていたので、人々は火事を起こさないように天狗を祀って祈願した。
天狗は火伏の神である限り、逆らうものには容赦をしない鬼神であることに変わりはない。山中で天狗を愚弄してはならない。

おカラスさん

熊野信仰である熊野牛王神符はカラス文字で書かれている。
熊野本宮大社(烏八十八羽)熊野速玉大社(烏四十八羽)熊野権現那智大社(烏七十二羽) 祭神はそれぞれ伊弉諾尊・伊弉冉尊か素戔嗚尊とされているが、もともとは樹木が鬱蒼と繁茂している形容詞、クマクマシというべき幽玄な、幾重にも重なり続く山並みや雄大な川の流れなどへの畏れ敬う気持ちであったと思う。

 

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