GHQ 焚書図書開封 西尾幹二

 「焚書」と「検閲」は別である

「GHQ 焚書図書」というのは初めて聞く言葉だという人が多いかもしれません。GHQ(連合国軍総司令部)は、いうまでもなく第二次世界大戦の後の、日本へ進駐してきた占領軍のことです。そのGHQが焚書をしていたのです。「焚書」というのは、流通している書物を止めてしまうこと、廃棄してしまうことです。紀元前三世紀に「焚書坑儒」といって、秦の始皇帝が儒教の書物を焼き捨て儒者たちを穴に埋めて殺してしまった有名な事件がありましたが、その事件から焚書という言葉が生まれました。要するに書物を廃棄して国民に読ませないようにすることです。
 アメリカ軍が戦後日本でそうして非文明的な行為をやっていたことは案外知られておりません。占領中の相手国の憲法をつくってはいけないという国際法を踏みにじったのもアメリカですが、新聞、雑誌、放送内容の検閲や私信の開封もしてはならないのはもとよりのこと、相手国の歴史を消すこと、本の発禁、禁書は当然やってはならないことです。

 ナチスによるユダヤ人の迫害にユダヤ人自身の組織的協力があったことは戦後早くに世界に衝撃を与えました。同様に、占領政策には被占領国民の個の協力が必ずあります。
 協力の中心に東京大学文学部があったことが最近分かってきました。助教授であった二人の学者の名前も今年発見されました。背後に当時有名だった刑法学者が総取りまとめ役をやっていたことも突きとめられました。いずれも後に、文化勲章受章者や日本学士院会員になられた方々です。
 日本の歴史は日本人の知的代表者によって廃棄され、その連続性を断ち切られたのでした。戦後日本の今日に及ぶ頽廃の原点がここにあります。

 とりわけ戦意形成期の十七年間の歴史を日本人の前から消して目隠しをかぶせてしまう「焚書」は、魂の深部を毀す悲しい行為でした。しかしそれだけでなく、占領軍が新しい歴史を教えこむ前提でもありました。アメリカ産の歴史の見方、すなわち満州事変より後に日本は悪魔の国になり、侵略国になったため、本当は戦争をしたくない平和の使徒アメリカがいやいやながらついに起き上がって悪魔を打ち負かした、というばかばかしい「お伽話」を日本国民の頭に覚えこませるにはどうしても必要な手続きでした。
 やがていつの間にかアメリカが民主主義を与えてくれて日本を再生させたという迷信に、一億国民が完全に支配されてしまうのです。
 昭和二十三年、二十四年の頃にはいつの間にかアメリカ万歳になっていくのです。

戦闘は終わったが戦争は続いていた

 私たち日本人が従順になった、あるいは敗北感情に打ちのめされた、その理由について通俗心理学の逆もありうるということです。それは何かというと-形の上では敗北したけれども、私たち日本人は心の底では「不服従」の感情をずーっと懐き続けていたのではないかということです。
 あの熱狂が、あの烈しい戦争への意欲が、林のごとくアッという間に静かになり、湖のごとく冷たくなってしまった。それを見て占領軍はびっくりし、驚き、かつ怪しんだ。
 じっさい、日本は戦争に負けたのではない、科学の力に負けたのだとういのが、私たちが子供のときに習い、認識していたことであります。戦争に負けたのではなく原子爆弾に負けたのだと、日本人はみな思っていました。

 

 

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