何もない空間

2017-03-20

何もない空間(The Empty Space)とえば、ピーター・ブルックの有名な本ですが、
演劇を志す人なら一度は聞いたことがあると思います。
僕の家の本棚にもありましたから、きっと劇団で買って読めと言われたのだと思います。
すみませんが、ほとんど内容を忘れています。

なにもない空間 (晶文選書)

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何もない空間、つまりゼロからスタートし無限の可能性へ向けて創作をする。
それが、演劇の醍醐味であるというわけです。
ゼロからカオスへ(又は無限大へ)、それが表現であるということ。
舞台装置は、何もなくても構わない、なぜならお客には想像力があるから、
細部まで作り込まれたセットは、かえってお客の集中力をそぐものだというわけです。
僕のような下世話な人間は、何もない舞台を見ると、つい制作費をケチッたなと
考えてしまいますが、笑。おまけに、舞台はだいたい真っ黒で真っ暗なので、
いきなり睡魔に襲われたりします。まあそれは、冗談として、、

このゼロからスタートして、何かを足していくという発想が、
とても近代的で、西洋的で、バイタリティーを感じる考えだなと思います。
ゼロスタートは、精神的に区切りとしてはとてもすっきりします。
僕たちは、いつでも人生をリセットしてゼロからスタートできたらと、つい考えます。
新年という区切りもそうだし、なにか習い事をはじめるときの気分でもあります。
何も書かれていないキャンバスに自分の思いの丈を描く、そんな気持ちの良さですね。
おニューの制服に、おニューのランドセル。ピカピカの一年生な気分です。
ところが、ところがですね、実際はゼロからスタートって、
やってみると結構、大変なことで、難しい問題がいろいろとあるわけです。
人生は、あざなえる縄のごとく繋がっていますしね。実生活を切り離すのも大変です。
だから、舞台などはじめる時に、テンションを高めて頑張らないとスタート切れない。
つまり、陸上競技のスタートみたいな感じですね。
準備体操したり、柔軟したり、発声練習したりと、いろいろと大変です。
それでも演技する側は、良いですよ、だってそこを目標にしてきたのだから、
ところで、観客側は?
当然そこには、温度差が生まれます。つまり壁が出来たわけです。
誰も、自分をゼロにしてから、劇場にはいりませんよね?
神社なら、多少、禊ぎをして入る気持ちはあると思いますが、。。
つまり、そいういうことですね。

逆に、舞台が空っぽでないとしたら、我唯足るを知る場合ですね。
ここから舞台に何かを足していくのではなく、引いていくとしたら、どうでしょう?
歌舞伎などの舞台の装置は細部まで絵が描かれています。
これは、ピーター・ブルックに言わせれば、お客の集中力の邪魔だというわけです。
しかし、はなっから、お客に集中していることを要求しないのなら、
集中するまで、背景でも見ていて下さいということかもしれません。
こんな緩いスタートが日本の演劇なのかもしれませんね。
そして、話が進み、必要でないものを引いていく過程で、
背景は眼に止まらなくなって物語に入っていく。
カオスからゼロへ向かう演劇をし、それは観客をも巻き込み
舞台が終演を迎えた時、観客とともにゼロの状態を作る。
そのとき、新しい空気を吸い込みながら、新しいページを開いて、幕を閉じるわけです。
終わりが、すなわち即、始まりでもある。そんな、演劇は、いかがでしょうか?

一見なにもない空間をすでに満たされている空間だとする演劇。
ピーター・ブルックの本の中にも、
見えないものを表現することは、触れていますが、
見えないもの見えるようにすることが表現だと、しています。
つまり、可視化なんですけど、これだと科学と同じになってしまう。
日本は、あくまでも見えないものは見えないまま扱う。
そう、「秘すれば花」なわけです。

私たちは、スタートラインにならんで、スタートを切るのではなく
すでに、時のように流れている何かに、乗るようにして芝居をはじめるわけです。
そういう意味では、芝居は幕が開く前から、すでに始まっているわけで、
そのるつぼの中に、身を投じるように演劇はじまる。観客もそのるつぼの中に
飲み込まれていき、やがてそのるつぼは、何かを浮かび上がらせては消えていく。
浮かんでは消えていく、何かに観客は人生を垣間見つつ、禊ぎを終える。
そこには、感動はないのかもしれない、しかし有難いものを見たと感じるだろう。
より、原始的な営みなのかもしれないが、純粋に楽しいと思う。
こうした、演劇をめざして、やってみたいと思っています。

つづく

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