夏の庄内日記 こぼれ話

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■カラスの恩返し?■ 【2008年8月】

北島康介の200m平泳ぎ決勝を、偶々祖母の家に「みずあげ」するためにいらっしゃった、なかさんとテレビ観戦する。なかさんは僕と5歳違いではあるけれど、彼女の母上と僕の祖母は姉妹なのである。因みに「みずあげ」とは曹洞宗の仏壇に線香を、御茶ではなく「水」と共に供えるこの地方の風習のことを指す。

長逗留を詫びつつ暇を告げる準備をすると、奥座敷から見える柿の木にカラスが舞い降りる。祖母は「カラス来たちゃ。スイカ突っこすんだかの」と心配そうに見る。
「追っ払ってこようか?」と僕が尋ねると、「だめだだめだ。カラスなの仇なすさけ、絶対だめだ。」と言われる。祖母曰く、カラスに敵対的態度を取ると必ず仕返しをされるという。追っ払ったりすれば、仕返しにスイカを全部食い荒らしたり、食べもしない青いトマトまで全部突っついてダメにするというのだ。

「へー。」と気のない返事をすると、
「タシロ(なかさんの母)なの、冬に餌やって『おらいの畑ちょすなよー』って言っておくと、網も糸も張らねぐども全然突っこされねな。隣の家の畑はみな突っこされても」

「へぇー。」半信半疑ではあるが、なかさんの母上様の手になるスイカやトマト、枝豆は絶品で色形もよく滋味に溢れることを考えると、強ち思い込みだとも言えないのかもしれない。

「トウゲ(祖母の別の妹)は、タシロから聞いて真似したさけ、その年から全然突っこされねな。」
「え?本当!?」

ここに至って僕は漸く全面的にこの話を信じる。

鳥類で最も高い知能を持つと言われるカラスは、人間の言葉、いや、気持ちを理解するのか?雪深い北国の厳しい冬に餌をくれる人を憶えているのか?そうではなくて、自然という全体の一部であると感じている大叔母が、一体であるカラスと共に「在る」、ということなのか?はたまた、蜂子皇子を羽黒に導いた霊験灼かなカラスの末裔だからか?

一体これはどういうことなのだろう?と思いながら、雨に烟る朝日連峰を走り抜け、庄内をあとにする。

※なかさま
 庄内弁の考証をお願いします<(_ _)>

和田晃一 

コラム

 

 

 


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