良質な時間が詰まった「はじまりのみち」
2014-07-11
日本の名監督・木下惠介の伝記映画『はじまりのみち』(2013年公開)。
といっても、映画作品作りの話ではなく、
戦時中の作品『陸軍』(1944年公開)完成後のプライベートエピソード。
戦時下では軍部の意向が第一、
『陸軍』も戦意高揚映画として制作したものの、
ラストシーンが弱々しいと物言いがつき、木下は映画会社の松竹を干されてしまう。
地元浜松に帰り、映画監督をやめようか悩む日々、
そんな中、疎開のために隣村まで、病で寝たきりの母をリヤカーで運ぶことになる。
恵介とその兄と運び屋で、峠道を3日間リヤカーで母を疎開させるために移動するロードムービー。
ロードムービー=人生の道のりをめぐる話なわけで、
3日間の中で、言葉をうまく発せられない寝たきりの母との交流や、
強く言えない木下惠介監督自身の気持ちの部分を描いていく。
日本の母を代表するような田中裕子が演じ、
もの静かにやさしい木下惠介を加瀬亮が演じる。
やさしい男を描く木下監督作品を知っていると、
伝記映画の本作も、物静かで端正なたたずまいの人々を丁寧に描く点が、
人の伝記ではなく、木下作品の根っこの部分へのリスペクトとして垣間見えます。
母と息子の交流という普遍的な話だけでも
名画座をみているような気分になりますね。
また木下ファンならば、
峠道をこえる映画と言えば、木下監督の師匠となる清水宏作品を連想し。
「二十四の瞳」・「花咲く港」など、過去作品のオマージュシーンも盛りだくさんです。
実は「クレヨンしんちゃん」の映画版監督原恵一の初実写映画。
こんなにも現代の日本映画で、昔の邦画のような良質な時間をつくっている作品は必見です。
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