あらすじでは伝わらない!「人情紙風船」
2014-01-27
1937年公開、山中貞雄という戦前の監督の遺作。
私は大好きな作品なのですが、筋書とは別次元の言葉で伝えられない”伝ふ”映画的表現があり、いつも作品のすばらしさを伝えたいのに苦戦しています(笑)
遺作といっても28歳で戦死した監督なので、これだけノリがいいのに最後の作品となったことが残念すぎるところです。
映画のあらすじは、歌舞伎「髪結新三」を原作に、長屋暮らしの軽妙さと、日中戦争の背景を垣間見る、刹那的な風景が交差していきます。
主人公は同じ長屋で隣住まいの髪結新三と浪人の海野又十郎。町人・新三のいなせっぷりと対照的でまじめすぎる元武士・又十郎、そこへ秘密裡に番頭とつきあっている質屋の娘・お駒が絡むことで、不運な三人の物語が展開していきます。
不幸な描写をあえてみせない演出で「わびさび」のような気配をちりばめ、 セリフのひとつひとつに「言わない」美学のような品性がありました。
みた人にしかわからない「見えない部分・言わない部分」の想像力を刺激してくる映画です。
もう一つの主役ともいえる舞台の長屋住人の描写では、 「駆け引きなく、おおらかで図太い生命力」が魅力的に描かれます。
この人間の本音の付き合い、家族的な雰囲気がこの映画に温かさを与え、 見終わると、不思議と筋は暗いのに痛い思いは残らず、人間味という味わいが残るのです。
日本人の魅力がいっぱい詰まっている作品です。
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